よく見る歯科の解説文章には、男性に比べ女性は口が乾くことが多いとあります。
特に、年を重ねるごとに、女性ホルモンの減少が原因で口が乾いてくるのだと書いてあります。
そして、私も患者さんにそのように説明することが多いです。
しかし、この説に反して、明らかに閉経後の年齢に達しているご婦人たちの口がうるおっているのを、たくさん診てきている自分は、
「女性ホルモンが原因で口腔乾燥に至りやすい」という説はほんまかいや?
と感じる今日この頃です。
口の粘膜が、キラキラと光で反射して、唾液があふれてくる80歳、90歳の女性もいてはります。
どないなってるんやろ?
私も、受けてきた教育は西洋医学的なもので、いわゆる「科学」という権威のもと、日々仕事をしております。
科学的とはなんぞや?
と日々よくわからないことも多いです。
科学的とは、再現性が求められ、みんなが共有できる事実、証拠がなくてはなりません。
私自身が「これは、こうだ」と言っても、たくさんの歯科医師が「私もそう思う、同じことを経験した。」という情報を、こんどは「リサーチ、研究」という手段でもって、「n(エヌ」」をより多く集めて検証することをします。
「n(エヌ)」とは数です。これは多いほうがいいのです。
私自身の経験のみでは「n=1」で「科学的」ではありません。
それは個人的な主観と言われ、科学をあがめる人たちにとっては「まゆつば」とされかねないものです。
この場合、「高齢女性は口が乾く傾向にある」ということが科学的であるのでしょう。
だから、科学的にものを言わねばならないと教育を受けてきた私は、患者さんに説明するときには必ず「経験から私はそう思います」と付け加え、「裏付ける論文があるのかは、わかりません。」と断りを入れます。
正直に申し上げて、私は「こういう論文がある」と言って、あたかもそこで検証されていることが「ほんまもんのこと、全員にあてはまるもの」だと自信をもって、解説する人(私もよくやりますが・・・)を信じていません。
科学には限界があるんや と思っています。それは、疫学調査などの場合はあくまで「傾向がある」というにすぎず、例外も多いからです。
個人としての「気づき」こそ、大切やと、思っています。だから、このブログをやっています。
「それ、科学的な根拠あるん?」 と同業者に言われても、最近は平気です。
だって、ぼくはそれを見たんやもん。そう感じたんやもん。と反論して、一人の歯科医師として、目の前のひとりの患者さんの口の中の出来事が、たとえ、世間で受け入れられている科学的な事実(?)と違っても、目の前で起きていること、それを体験している自分を信じるようにしています。
少し、横道にそれましたが、
口の中が、少女のように唾液がよく出ている高齢女性がいる一方で、、、、
男のくせに、どないしたん?口乾いてるやん!って人もいるわけです。
口の乾燥、すなわち、だえき(唾液)をつくる、だえきせん(唾液腺)がちゃんと唾液をつくってくれないと、粘膜上にある唾液に泡が混じっていたり、光を当てても、粘膜がキラキラと光を反射せずに、マットな感じに見えたりします。
男性で口が乾いている人には、必ずいろいろ、問診をします。
- 内科の先生からクスリ何種類くらいもろてますか?
- 疲れがたまってることありませんか?
- 今、緊張してますか?
などなど・・・
唾液をつくる、唾液腺という組織は、自律神経が支配しているようです。
自律神経が支配しているということは、私たちが意識して、なんとかしようと思っても難しいってことです。
自ら律する神経
ですから、勝手にやってはるんです、自動的に唾液をつくったり、つくらんかったりするということです。
心臓などは、少しの間だけ、止めておこうと努力しても止まりません。
心臓も自律神経が支配しているようです。
なので、唾液は、自分でなんとかしようと努力しても、その分泌量をコントロールすることが難しいです。
ただ、単純に言えることは、
緊張している時や心配事があるときは、唾液は出にくいです。
また、クスリの影響もあります。
心臓をはじめ血管など、自律神経が支配しているところに対して、お医者さんがクスリを処方している時は影響があることがあります。まったく影響していない患者さんも多いけれど・・
睡眠薬、睡眠導入剤を飲むと、かなりの確率で影響が出やすい感じです。眠りやすいけど、唾液腺も寝てしまっている感じです。
また、花粉症の季節に、鼻水を止めるクスリも、しっかり唾液も出にくくなります。
しかし、男性でこれらのクスリを服用しいない場合、、、
考えられることは、「緊張状態」か「体が眠りたがっているか」です。
緊張状態(戦闘モード)→食べている場合やない→唾液出ない
常に緊張状態を強いられている、大会途中のアスリートたちの検診をしたことがあります。
みなさん20~30歳代の男性で、お若いのにもかかわらず、ほとんどの選手に口の乾きがあり、びっくりしたことがあります。
しかも検診を待つ間の選手たちは、「戦い系のゲーム」をしており、常に「戦闘状態」=「緊張状態」にあると考えました。筋肉に血流が取られ、消化管には血流が少なくなっているのでしょう。
また、、
「体が眠い」と訴えている時に起きている状態の時も、唾液の量は減るのだということも、よく経験します。
奥さんに口臭がひどいと、嫌な顔をされると訴える方は、夜勤が週に3日ほどあり、やはり、夜勤明けに診察に来られた時に、唾液分泌が減っていることが認められました。口が唾液で洗い流されていないと、いくらきれいに、歯磨きをしてもニオイが出てくることがあります。
からだが寝ている時=唾液は少ない
先日診察した70代の男性は、夏には出ていた、つばが最近、朝に出ない、義歯をつけていると痛いことが多いと訴えていました。
お聞きすると、朝4時に起きて、散歩して、ベロの体操をして、奥様のために朝食をつくる。その食事も奥様が食べやすいように細かく刻んでひと手間かけるのだということ。なんて優しいご主人。
これを聞くと、この方が「生真面目(きまじめ)」であるとわかります。
「しなければならないルーティン」を自らに課して、それを守り続けることは、美しいことではありますが、張りつめている生活には「うるおい」が失われがちです。
真面目過ぎる男性、周りへの気遣いが過ぎる男性は乾き気味です。
クスリの服用もなく、今でも女性にモテそうな、その方には、「不真面目な」処方せんが必要と感じます。
つばが出ないのは、朝4時に「からだ」は起きたくないのかもしれません。10月に入り、朝、少し肌寒いです。寒くなると「からだ」は睡眠を要求します。その「声なき声」を聴かずに、ただ「4時に起きる」というルーティーンにとらわれてしまうと、口が乾き、入れ歯と粘膜に潤滑剤として本来存在する唾液がなくなり、容易に粘膜を傷つけることとなります。
週に2回ほどは自分勝手に、ぐうたらして自分勝手に外に繰り出すのもよいのではないかと思います。
私は、この方にはそうは言えず、少し寒い朝が増えてくるので1時間ほど遅めに起きることを勧め、体操は一日おきに減らして、代わりに、深い呼吸をゆっくり体を横たえて毎日5~10分でもすれば、唾液は出やすくなると提案しました。
「口がかわく」と「ノドがかわく」の違い
ドライマウスという言葉をご存じでしょうか?
ドライアイという言葉は目が乾くといった意味で、スマホやパソコン画面を瞬きせずに見続けると乾いてくるということもあり、理解できます。
ドライマウスは、「口が乾く」ということで「ノドがかわく」という意味とはちょっと違います。
患者さんはよく、「口が乾かないようによくお茶や水を飲んでいます」とおっしゃっていますが、お茶や水をたくさん飲んでも、口の乾きは、改善できない場合がほとんどです。口がうるおうのは、その液体が口の中に存在するときだけで、飲み込んでしまったときに、唾液が出なければ、また乾いてしまいます。
脱水を予防する意味で水分をとることはいいでしょう。
しかしドライマウスを改善するには水分摂取では解決できないとしたら、どうすればいいのでしょうか?
- 積極的に唾液腺をマッサージやベロの体操して「絞りだす」方法
- すっぱいもの、梅干しやレモンを口に入れる、あるいは想像するイメージ療法
- ガムをかむ習慣をつける
- 異性のセクシャルな魅力を思い描くことも効果があるかもしれません
- 目をつむって、呼吸に意識を集中して、ゆっくりと深めの呼吸をすることで、涙や唾液を自然とあふれさせる方法(私はこれが好きです)
- ドライマウス、ドライアイを起こす可能性のある、クスリの服用の見直し(お医者さんと相談)
以上は、実際に私が患者さんにアドバイスしている方法です。
唾液が少ないと、かぜのウイルスが体内に侵入しやすくなるようですし、口臭もひどくなりがちです。
うるおい多い口の環境をつくりたいものです。
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